地名のアクセント

長野県の長野という地名の発音は、地元では尻上がりのアクセントでナガノ(太字は高アクセント、以下同じ)というようだ。埼玉県の行田市の埼玉(サキタマ)も、郡名の埼玉も、尻上がりアクセントの発音である。

金田一春彦氏の話によると、英語のコップ(cup)やバスケット(basket)のアクセントは語頭にあるが、日本語に移入されてから長く日常生活に馴染んで来ると、コップ、バスケットと尻上がりのアクセントに変化してゆく傾向があるという。だから今の若い人たちが「彼氏」を尻上がりアクセントで発音するのは日本語の日常語の法則に適ったものであって、日本語の乱れとは言えないという。

地名はもともと地元の生活によく馴染んできたものが大多数なので、尻上がりアクセントが多いのだろう。ところが「埼玉」などの古い村名が、郡名や県名へと"昇格"されるにつれて、語頭アクセントに変ってしまうのは、地元以外のより広い地域でも呼ばれるようになるため、地元以外の人の発音が優勢となってしまうのだろうと思う。
埼玉県の郡名の例では、入間、比企、大里、幡羅、児玉など語頭アクセントになっているものが多い。

明治22年以後の村名はどうかというと、以下に例としてとりあげる今の埼玉県熊谷市西部から深谷市にかけての旧村名の例では、語頭アクセントは少ない。そして、それらにはそれぞれの事情があるようである。その地域の語頭アクセントの地名は次の通り。

今の深谷市の、渋沢栄一の出身地の旧村名の八基(ヤモト)は、八つの小さい村が合併して明治に成立した新しい地名である。また戦後熊谷市に編入された大幡(オハタ)は、旧大里郡と旧幡羅郡の郡鏡付近のいくつかの村が合併したときに、郡名の大里と幡羅から1文字づつ取って大幡とした新地名である。新地名は語頭アクセントになる傾向があるようだ。
幡羅(タラ)は、旧幡羅郡の中心地という理由で明治時代に命名された村名で、郡名のアクセントがそのまま使われたものと思われる。
別府(ベップ)という地名はアクセントは語頭と尻上がりと二種類あるように聞えるが、もともと役所の出先機関の意味なので、役所関係の人々の語頭アクセントが優勢になったり、他の同名の地名アクセントにつられたりということかもしれない。
深谷市に編入された新会(ンガイ)、熊谷市東部の成田(リタ)については、武将の新開氏、成田氏の苗字のアクセントの影響なのだろう。
以上のように、語頭アクセントの地名は、それぞれの経緯の事情を説明できてしまうように思われる。
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