初夢と宝船

宝船の絵にえがかれた宝船には、宝物や米俵が載せられ、七福神が乗っていたりする。江戸時代ごろから、その絵に次のような歌を書き、元旦(または二日)の晩にその絵を枕の下に置いて寝ると、縁起の良い初夢を見ることができるのだという。

 長き夜の 遠の眠りの 皆目ざめ 浪乗船の 音のよきかな

この歌は、回文歌。つまり上から読んでも下から読んでも同じに読める歌である。ひらがなだけで書くと次のようになる(正確な歴史的仮名遣ではない)。

 ながきよの とをのねぶりの みなめざめ なみのりぶねの をとのよきかな

さて縁起の良い夢といえば、「一富士、二鷹、三茄子(なすび)」である。
なぜこれらが縁起が良いとされたのかは、諸説があって、はっきりしない。駿河国の名物を上げたものが夢判じをする人たちによって広まったとか、富士の裾野は曾我兄弟の仇討の場所、鷹の羽は浅野家の紋なので赤穂浪士の仇討の意味……というのもあるが、はっきりしない。
初夢は、もとは節分が明けた立春の朝に見る夢のことだったらしいが、江戸時代ごろから正月の夢を言うようになったらしく、庶民は暮れになると宝船の絵を買い求めたのだろう。
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Comments

雪月花 | 2005/12/20 19:37
番人さま、こんばんは。鏑木清方の随筆集を読んでいましたら、ちょうどこの宝船と回文歌の話がありましたのでコメントしています。お正月二日の晩に、子どもたちが「おたから、おたから」と声を上げつつ、七福神の乗った宝船の絵と「ながきよの‥」の歌を刷ったものを売り歩いたのだそうですね。それを枕の下に入れて、初夢を楽しみに寝ていたころもあったなんて、知らなかったです。長閑な年迎えの風物だったのですね。

そんな風流もどこへやら、いまではみな三億円!を夢みて、年末ジャンボ宝くじを枕の下に入れて眠りに落ちるのかもしれませんね。
森の番人 | 2005/12/21 01:16
雪月花さま、だいぶおしつまりました……。鏑木清方は好きな画家ですが随筆集とは興味深いですね。
富士山の夢は見たことがあるのですが、二つめ、三つめのものまではなかなかつながらないものなのかも。
初夢のほか、書き初めですとか、初のつくものも多く、新年はやはり気持ちが改まると思います。来年はブログで日記を始めようと思っている人もいるかもしれませんが、くれぐれも三日坊主にならないことを祈りつつ……
実は今年の1月に始めた『歌語り歳時記』というブログは3回の記事で中断してしまったのですが、おかげさまでこのブログは順調に継続しています。
雪月花 | 2005/12/21 12:50
番人さま、追伸です。
『鏑木清方随筆集 東京の四季』は岩波文庫です。随筆の名手でもあった清方の、四季折々のつれづれに挿絵が添えられたすてきな一冊です。

せわしい年の瀬ですが、お体に気をつけておすごしください。どうぞよいお年を‥
森の番人 | 2005/12/22 12:09
著者の挿絵入りの一冊とは、岩波文庫の企画も良いものですし、早急に参考にさせていただきたく思います。
雪月花さまも、良いお年を
竹原治子 | 2008/01/09 13:20
初めまして 
昔の書体「を」「と」「ね」「な」等。
長き世の「よ」は「代」?
古文字での宝船の回文を知りたいので、
ご存知でしたら教えてください。
森の番人 | 2008/01/09 21:15
お尋ねの意味が不明なのですが……、
江戸時代の変体仮名で表記された宝船の和歌でしたら、当時の木版刷りのものを探せば見つかると思います。
「長き夜」を「長き世」ととれば、黒船の来航で目が覚めたような意味にも解釈できそうですが、この和歌はもう少し古いと思います。
ちなみに歴史的仮名遣では、遠は「とほ」、音はそのままで「おと」となります。

庶民は暮れに宝船の絵を買い求めたと書きましたが、正確には「暮れ」でなく「節分の前」のようです。http://nire.main.jp/sb/log/eid135.html" target="_blank">http://nire.main.jp/sb/log/eid135.html

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「おたから、おたから」 | 雪月花 季節を感じて | 2006/01/03 09:42
  謹賀新年 みなさまのご健勝とご多幸をお祈りいたします 「おたから、おたから!」 正月二日の晩の寒空のもと、元気な子どもたちの声が響きます。子供たちが、小さく切った半紙に七福神を乗せた宝船の絵と、 なかきよのとをのねふりのみなめさめ なみのりふねのをとのよきかな (永き世の遠の眠りのいま目覚め ...

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