歌語り風土記 (雑感と凡例)

 


 雑感と凡例


 「諸国歌物語」といふ題名で予定してゐたものを「歌語り風土記」と改めたのが、本編である。「諸国物語」といふことばを何とか生かしたかったのだが、今の人にも内容を想像しやすいであらう題名に改めた。副題の「くにたまの歌」の意味については、別に序文で説明してある。
 茨城県日立市川尻町(旧豊浦町)の養蚕(こがひ)神社にある本居豊頴(宣長の曾孫)の歌碑は、竹下数馬氏の著作の日本歌碑一覧表で知ったのだが、全国的に著名の神社といふわけではなく、歌も単に地方の養蚕の神の神徳を歌ったものと思ってゐた。ところが吉田東伍博士の大日本地名辞書をぱらぱらとめくってゐると、筑波山の近くのあるお寺の縁起で、豊浦の浜に流れ着いた金色姫の話があることがわかった。そこでその物語と歌を合せて、歌物語風に表現することができたのである(茨城県のページ参照)。金色姫の話は養蚕神社のある豊浦の地でもよく知られた話ではあるのだらうが、豊浦の地名も地図にはない今日にあって、少ない資料の中で別々に紹介されてゐた歌と物語を知ることができたのは、新しい喜びであった。
 本書に引用の歌は、単独の歌として見れば名歌といふのは少ないのだが、歌の背後にある物語をよみがへらせることで、古い歌の生命もよみがへらせることができる。芭蕉の句なども地方の伝説を幾重にも重ねた上に詠まれることが多いやうだ。本書は従来の歌物語の紹介にとどまらず、右のやうなこころみを随所にこころがけた。それはちょうど貝合せのやうでもあった。
  くにたまの歌の浜辺のかたせ貝、甲斐ある御世に合せても見む
 蛇足ながら、豊浦の養蚕(こがひ)神社では、毎年五月五日に近くの小貝(こがひ)ヶ浜から美しい貝を拾ってきて蚕棟にあげると、繭のできが良いといふ。右の歌は福島県相馬市の宇多の小浜を歌った古歌の本歌取りのやうなものになってゐる。
 平成十三年十月(平成17年2月一部訂正)

  凡例
1、県別にまとめたが、埼玉県のページ数が多くなった。
2、ルビを短くした部分がある。たとへば「素戔嗚(すさのを)尊」とあるのは、「の」を補って「すさのをのみこと」と読む。
3、歴史的仮名遣については、字音は現代風表記としたが、一部の和語として定着した感のある言葉「〜のやうな」「〜しさうだ」などは例外とする。
4、一部に歌の作者名を「伝○○○○」と表記した部分もあるが、そのほか和泉式部、小野小町、西行、菅原道真、等々、多くについては、特に「伝」の文字をつけてゐない。
5、左の「県名」をクリックしてご覧ください。

 序論・くにたまの歌(略)



 『歌語り風土記』は平成13年10月に一通りの完成を見たのですが、その後、細部の修正や追加が後を断たず、確定した原稿を得ることができないまま、今後も修正を重ねてゆくべきものとして掲載することにしました。序論は後日掲載いたします。お気づきの点など御指摘いただければ幸ひです。