柿本神社 盲杖桜
明石市
明石の柿本神社は、柿本人麻呂をまつり、仁和年間(885-9)の創建といふ。
○ほのぼのと明石の浦の朝霧に島がくれゆく舟をしぞ思ふ (古今集) 柿本人麻呂
むかし柿本神社に、筑紫からある盲人が参篭して、目が明くやうに祈った。そして七日目の満願の日に歌を詠んだ。
○ほのぼのとまこと明しの神ならば、ひと目は見せよ、人麻呂の塚
すると一瞬だけ目が開いたが、すぐに閉ぢた。「ひと目は」の文句が悪かったのだと思ひ、再び七日間籠って歌を詠みなほした。
○ほのぼのとまこと明しの神ならば、われにも見せよ、人麻呂の塚
今度は間違ひなくはっきりと目が開いたので、もはや不要となった杖を、社前に突き刺して帰って行った。杖は桜の枝で作られてゐた。やがてその杖から根が生へ、芽が吹いて、花が咲いた。「盲杖桜」といふ。