引馬野

飯郡御津町

 三河湾(渥美湾)にのぞむ宝飯郡御津町御馬の引馬神社の付近を「引馬野(ひきまの)」といったらしい(引馬野は静岡県浜松市付近ともいふ)。大宝二年十月、持統上皇の三河行幸に従った長奥麻呂の歌に詠まれる。

 ○引馬野(ひきまの)に匂ふ榛原(はりはら)、入り乱れ、衣匂はせ。旅のしるしに      長奥麻呂

 このときの持統上皇の行宮は、少し内陸へ入った音羽町赤坂の宮道天神社の地に建てられたといふ。亡くなった皇子の草壁皇子が滞在したことのある地であるらしい。

 同じ行幸の時に高市黒人の詠んだ歌。

 ○いづくにか船泊てすらむ。安礼(あれ)の崎漕ぎ()み行きし棚無し小舟   高市黒人

 この行幸の二か月後に持統上皇は崩御されてゐる。