八橋

知立市八橋町

 伊勢物語の主人公が東下りのとき、三河国の八橋といふところを通った。川が蜘蛛の手足のやうに複雑に流れて、橋が八つ架かってゐるので、八橋といふらしい。杜若が多く咲いてゐたので、「か、き、つ、ば、た」の五文字を五句の始めに置いて、旅の心を詠んだ。

 ○から衣、きつつ馴れにし、つましあれば、はるばる来ぬる たびをしぞ思ふ

 主人の歌に一同は涙にかきくれたといふ。

 八つの橋がどのやうな配置で架かってゐたかは不明だが、尾形光琳は「八橋屏風絵」に折れ曲って互ひ違ひに架かる八枚の板橋を描いた。

 ○来ぬ人をまつやつ橋の食ひ違ひ 元禄ごろの川柳