熱田

名古屋市熱田区

 熱田の西にあった入江を愛知潟といった。アユチは東風の意味である。

 ○愛知潟、潮干にけらし。知多の浦に朝漕ぐ舟も、沖に寄る、見ゆ  万葉集

 ○桜田へ鶴鳴き渡る。鮎市潟潮干にけらし。鶴鳴き渡る       高市黒人

 熱田から東南の入江は、鳴海潟といった。

 ○浦人の日の夕暮になるみ潟、帰る袖より千鳥啼くなり       通光

 むかし日本武(やまとたける)尊の東征のとき、熱田の尾張国造家を宿とし、国造の娘の宮簀姫(みやずひめ)と夫婦の契りをした。そして熱田を出た日本武尊は、船で鳴海潟を渡って行ったといふ。

 ○鳴海らを見やれば遠し、直楫(ひたかぢ)にこの夕潮に渡らへむかも      熱田大神縁起

 大高村(名古屋市緑区)の火上姉子(ひかみあねこ)神社は、宮簀姫をまつる。大高は古代には日高といったといふ。右の歌の直楫は日高路とも読めるが、東路の意味かもしれない。日本武尊がのちに甲斐の酒折宮で宮簀姫を偲んで詠んだといふ歌もある。

 ○愛知潟、火上姉子は吾こむととこさるらむや、あはれ姉子を    熱田大神縁起

 伊勢国で世を去った日本武尊は、白鳥となって熱田の地に飛来したといふ。名古屋市熱田区白鳥町に白鳥塚がある。

 ○敷島の大和恋ひしみ、白鳥の翔りいましし跡処これ        本居宣長

 日本武尊の草薙の剣をまつったのが熱田神宮である。