むかし陸奥信夫(しのぶ)の里の藤姫は、京にゐる父を尋ねて、夫とともに尾張の萱津の宿まで来たが、病のために死んだといふ。十六才であった。後日ここへ京の父が訪れて供養したが、逢ふことができなかったことから、以来「あはでの森」といふ。 ○忘るなよ。我が身消えなば、後の世の暗きしるべに誰を頼まん 藤姫 ○嘆きのみ繁くなりゆく我が身かな。君にあはでの森にやあるらん 相模