牛に引かれて善光寺参り

小諸市 布引観音

 昔、小諸に慾の深い婆がゐた。四月八日の観音さまの祭礼の日は、機を織ったり布を干したりしてはいけない日とされてゐたが、婆は観音さまの信仰もなく、勝手に布を干してゐた。するとどこからか一頭の牛が現はれて、二本の角で婆の布を引っかけて走り去った。婆は牛を追ひかけて何里も走り、善光寺まで来て牛を見失った。あくる日、婆はとぼとぼ小諸まで帰ってくると観音堂の前で寝込んでしまった。夢に観音さまが現はれて歌を詠んだ。

 ○牛とのみ思ひはなちそ、この道に汝をみちびくおのが心を

 目覚めると堂の中の観音さまの首に、婆の布が懸かってゐた。観音さまが牛と化って導いてくれたことがわかり、この日から信心深い婆さんになったといふ。