諏訪の神

諏訪市

 むかし近江国甲賀郡の甲賀三郎諏方(よりかた)は、伊吹山の賊を退治したとき、妻の春日姫を何者かにさらはれた。三郎は日本中の山々を探し歩き、信濃国蓼科(たてしな)山の人穴で姫を発見して救出したが、兄の二郎に穴へ突き落とされ、地底の国々を遍歴することになった。長い試練に耐へて地底から脱出できた場所は、浅間嶽のふもとであった。このとき三郎の姿は、蛇身となってゐた。その後、三郎は諏訪明神として諏訪の上社に鎮座し、春日姫は下社に鎮まったといふ。(神道集)

 冬の始めに諏訪湖が凍るとき、湖を横断する氷の堤ができる。御神渡といひ、大蛇の渡った跡だともいふ。

 ○諏訪の湖の氷の上の通ひ路は、神の渡りて解くるなりけり     顕伸

 ○諏訪の海や氷を踏みて渡る世も神し守らば危ふからめや      宗良親王

 諏訪神社{大社}は建御名方(たけみなかた)命をまつる信濃国一宮である。