笛吹権三郎
東山梨郡三富村芹沢
後醍醐天皇の御代のこと、甲斐国の芹沢という村の
ある秋、子酉川が大洪水にみまはれたとき、母は水に呑まれて行方不明となってしまった。それ以来権三郎の笛は、深い悲しみに満ちたものとなり、村人もあまり近づかなくなってしまった。そのうち権三郎の姿が見えないことに気づいた村人は、心配になって川下の集落を捜すと、筏に乗って笛を吹く男を見たといふ者があった。筏は発見されたが、権三郎を見つけることはできなかった。
この村ではそれ以来、月のよい晩には、どこからともなく笛の音が聞えたといふ。すると村人は握り飯を作って川に流し、権三郎の霊を慰めたといふ。以来、子酉川は笛吹川と呼ばれるやうになった。
○山あらし雪の白波吹き立てて、ねとり流るる笛吹の川 夢窓国師
○峡川の笛吹川を越え来れば、この高はらはみな葡萄なり 窪田空穂