日本武(やまとたける)尊の東征の帰途、箱根の碓氷の峠を越えて甲斐国に入り、酒折宮に留まって、土地の翁と片歌のやりとりをされた。 ○新治、筑波を過ぎて幾夜かねつる 日本武尊 ○かゞなべて夜には九夜、日には十日を 御火焼翁 尊が旅立つとき、塩海足尼(しほのみのすくね)に袋に入った火打石を授けて甲斐国の将来を托された。この火打石は、尊が東国へ出発のときに伊勢神宮の倭姫(やまとひめ)命から賜はったものである。塩海足尼は、火打嚢を御神体に宮を建て、日本武尊を国の守護神としてまつった。その甲府市酒折の酒折宮は、もとは今より北の山の中幅にあったといふ。 ○語りつぐ御歌とともに、万代(よろづよ)につぎて栄えむ酒折の宮 本居宣長