宇津山

宇津ノ谷峠

 宇津山は、安倍郡と志太郡の堺(今の静岡市と岡部町の堺)にある峠である。伊勢物語の主人公が東下りにここを通ると、道は暗く細く、蔦や楓が繁り、歩く身は心細く、思ひがけないことに出会ひさうだと思ってゐたら、旅の修行僧に出会ったので、京への歌を託した。

 ○駿河なる宇津の山辺のうつつにも夢にも人にあはぬなりけり    伊勢物語

 以来、京の人にも知られた土地となったが、正応二年(1289)にここを通った「とはずがたり」の筆者は、蔦も楓も見ることなく歌を詠んだといふ。

 ○言の葉も繁しと聞きし蔦はいづら、夢にだに見ず。宇津の山越え  後深草院二条