箱根伊豆二所権現

 むかし天竺のシラナイ国の大臣の源中将尹統(これまさ)の娘、常在(じょうざい)御前は、継母にたびたび迫害されて、旦特山の深い穴に突き落とされた。継妹(ままいも)霊鷲(りょうしゅう)御前は、姉を慕って旅に出たが、旦特山の穴のそばで泣き伏すばかりだった。そこへハラナイ国の二人の王子が現はれ、姉妹を救出した。姉妹は二人の王子の妃に迎へられ、ハラナイ国でやうやく安らぎを得た。

 ○君ならで昔の契り深くして、めぐりてぞ逢ふ。神の恵みに     常在御前

 父の中将は、仏に祈って娘たちの所在を知り、ハラナイ国へ来て再会を果たしたが、継母は恐ろしい大蛇と化して追ってきた。そこで一家は日本へ渡ることにし、船で相模国の大磯の浜に着いた。中将と太郎王子と常在御前は、箱根三所権現(箱根神社)として現はれ、二郎王子と霊鷲御前は、伊豆権現(伊豆山神社)として現はれたといふ。(神道集)