ゐざり勝五郎

箱根町塔の沢

 大阪で道場を開いてゐた飯沼三平は真陰流の達人で、ふとしたことで佐藤郷助といふ侍の怨みを買って闇討された。三平の弟の勝五郎は、仇討を心に決めて大阪を出て奥州へ向かった。白石で九十九新左衛門の道場へ入門。めきめき剣の腕前をあげた勝五郎は、新左衛門の娘の初花を妻とした。仇討のため初花ととともに奥州をあとにした勝五郎だが、足の病にかかり、歩くこともままならず、車に乗せられて初花に引かれ、箱根にしばらく滞在した。

 ○ここらあたりは山家ゆゑ、紅葉のあるのに雪が降る

 湯につかる勝五郎と、塔の沢の滝に打たれて神に念じる初花。やがて勝五郎の足も回復し、小田原で佐藤を討ったのは天正十九年のことであるといふ。(人形浄瑠璃・箱根霊験躄仇討)