野火止

新座市

 武蔵野では古代に焼畑が行なはれたらしい。芒や潅木の野を焼いて灰の中に種を蒔き、翌年は別の野を焼く。数年で一巡するころには、元の野は再び潅木が繁ってゐる。

 ○おもしろき野をはな焼きそ。古草に新草交じり生ひは生ふるがに  万葉集 3452

 ○武蔵野は今日はな焼きそ。若草の妻もこもれり。吾もこもれり  伊勢物語

 右の歌は、「こもれり」と二度繰返すやうに、妻と吾が別々の場所にこもってゐる。妻といふ呼び方からも、結婚の前の物忌のこもりなのだらう。焼畑のとき、延焼を止めるために塚や堤を築いたのが野火止である。新座市野火止の地名に残る。

 ○若草の妻もこもらぬ冬ざれに、やがても枯るる野火止の塚   道興