武蔵野の逃げ水

 関東平野の西部に広がる武蔵野は、どこまで行っても、すすきの原だったといふ。

 ○武蔵野は月に入るべき山もなし。尾花が末にかかる白雲   藤原通方

 ○武蔵野はゆき行く道のはてもなし。帰れといへど、遠く来にけり  釈迢空

 春から夏にかけてのよく晴れた日に武蔵野を歩くと、やや遠方に水溜りのやうな流水のやうなものが見える。近づいて見るとそこに水はなく、遠方に逃げるやうに移動して見える。武蔵野の逃げ水といふ。現在でも舗装道路の遠方に良く見えることがある。あるいは逃げ水とは泉が枯れやすくまた他に発生しやすいことの意味だともいふ。

 ○東路にあるといふなり、逃げ水のにげかくれても世を過ぐるかな  俊頼 夫木抄