男衾三郎絵巻

寄居町、大里村

 鎌倉時代に、武蔵国の大名の息子に、吉見二郎、男衾三郎の兄弟がゐた。吉見二郎は、京の美しい女を妻に迎へ、慈悲といふ名の一人娘を得て、吉見の館で貴族のやうな風流で裕福な暮しをしてゐたが、旅に出たとき盗賊に殺され、妻や娘は不幸な運命をたどることになった。一方、男衾三郎は、質実剛健そのままで荒武者のやうな暮らしぶりだった。死んだ兄の領地を得て、男衾の妻のいふままに兄の娘の慈悲を「()の日」と名を変へさせて下女に使った。あるとき、赴任したばかりの国司が吉見の館を訪ね、下女に似合はぬ美しい娘に気をとめた。のち国司がその娘を妻にと望んだとき、男衾の妻は、自分の娘を着飾って会はせたが、国司は年が明けても返事をせず、ひとり歌を詠むばかりだった。

 ○双葉より緑変らで生ひたらむ、()の日の松の末ぞゆかしき

 ○音に聞く掘兼(ほりかね)の井の底までも、我、わびしむる人をたづねん   (男衾三郎絵巻)

 この絵巻は最初の部分しか伝はらず、男衾三郎を主人公として描くまでに至ってゐない。旧男衾郡は、荒川の南の寄居町・川本町などをいふ。吉見郡は大里村・吉見町あたり。



--★--埼玉郡・北葛飾郡--------------