小野小町

山形県米沢市 小野川温泉

 むかし小野小町は、京から陸奥へ下向した父を探し尋ねて、自ら旅に出た。長旅に疲れ、どうにか陸奥国へ入って、吾妻川の水に顔を映して見ると、京で一番といはれた美貌は跡形もなく失せ、小町はそのまま重い病に伏せってしまった。ある夜の夢に老婆が現はれ、老婆の教へのままに小町が近くの土を掘ると、湯が湧き出てきた。この湯を飲み、また湯につかり、小町は元の美貌をとりもどしたといふ。小町は老婆が薬師さまの化身であると悟り、温泉の近くに薬師堂を建てた。ある日この温泉で小町は、歌を歌った。

 ○立ち別れ都の空を後に見て、何処(いづこ)を宿と定むものかは      小野小町

 するとこれを聞いた湯治客の男が突然泣き出し、その男が父であることがわかったといふ。